多焦点合成を使用したジュエリーの写真について

焦点位置をずらした画像を合成すると全体がシャープな1枚の画像になります。

多焦点合成とは?

多焦点合成とは、焦点位置を少しづつずらしながら撮影した写真から、焦点の合っている部分をつなげて1枚の写真に合成する技術のことです。

真珠のネックレスのような全ての珠をはっきり見せたい写真が欲しい場合、「ティルト」という手法で焦点を斜めにし、絞りの値を大きくすることで焦点の合った範囲を広げることが可能です。しかし、ティルト付レンズは高価で、且つ種類が少ないことがデメリットです。

使い慣れたレンズで焦点位置を変え撮影するだけでシャープな画像ができるのは大きな魅力です。

一方で「絞り」を使えばよい、っという声が聞こえてきそうですが、簡単にそうは言えません。デジタルカメラの場合、絞りを大きくすれば回折ボケという現象が発生し、逆に画像が滲みます。絞りの限界値はイメージセンサーの画素のピッチ幅で決まります。

イメージセンササイズ 理論的な限界の絞り値
フルサイズ(36x24mm) 画素ピッチ4.9μm F値 14
APS-C(23.4×16.7mm) 画素ピッチ4.0μm F値 11

イメージセンサと絞りの関係についてもっと知りたい方は、以下の別サイトを参照してください。
レンズの絞りは絞れば絞るほど鮮明になりますか? 》

お客様から大きく撮ってほしいと小さなダイヤモンドを渡された経験があり、どうすれば綺麗にはっきり撮影できるか様々な角度から調べました。現在は、小さいものを大きくはっきり見せるには多焦点合成することがもっとも現実的であると思っております。

しかし、多焦点合成にも弱点はあります。それについては次の章で解説したいと思います。

多焦点合成を使った例、用途

ジュエリーの撮影において多焦点合成のメリットを得られるのは、小さいものを大きく撮影するような場合です。近づいて接写すればするほど大きく撮れますが、焦点深度が狭くなります。 例えば、0.5カラット以下のダイヤモンドルースをA4サイズの紙いっぱいに大きく印刷したり、指輪を2,000px以上の大きさで撮影したりする場合です。

具体的な例として、上図の指輪の写真をご覧ください。指輪の横幅のピクセル数は約1600pxです。 ①のように手前の石に焦点を合わせると奥のリングがボケているのがわかります。指輪全体をはっきり見せたい場合は①~⑥のように焦点を手前から奥にずらして撮影し、合成することで⑦のような画像が得られます。

しかし、合成にも弱点があります。それは重なっている場合です。具体的に見ていきましょう。

多焦点合成のデメリット画像

指輪を横に置いて撮影した例です。1300pxくらいの大きさで撮影したため手前に焦点を合わせると奥がボケています。数枚撮影し、最後に奥側のプラチナ部分に焦点を合わせています。しかし、ご覧の通り手前のダイヤモンドがボケてプラチナ部分がはっきり見えません。そのため多焦点合成しても常にボケている部分はボケた状態で残ってしまいます。

多焦点合成は万能ではありません。できるだけ重ならないように構成・配置したり、場合によっては合成後レタッチで修正したり、作業が必要になることは覚えておいてください。

多焦点合成を実現するソフトウェア

4つ紹介したいと思います。 それぞれに得手、不得手があります。まずは無料から始めて使ってみるのがよいと思います。フォトショップをお持ちの方は、フォトショップの合成機能を試してみるのがよいと思います。

  1. Zerene Stacker 》 (有料)
  2. Helicon Focus 》 (有料)
  3. Photoshop 》 (有料)
  4. CombineZM(ZP) 》 (無料) ※現在は、ページが存在せずダウンロードできません。

Zerene Stacker は有料の焦点合成ソフトウェアです。使用するに至った背景は、合成エリアの領域をHelicon Focus(ヘリコンフォーカス)のRadiusとSmoothingだけで決めると焦点が合った画像と合っていない画像との境界が縁取ったようにみえることがあり、その縁取ったような境界を無くせないか調査のため、Zerene Stackerを使用しました。焦点を変えた画像の処理が進む途中でContrastを決める別画面が出ます。この別窓で調整することで縁取りのような跡が無い合成画像が得られることがわかりました。Zerene Stackerの合成処理時間をヘリコンフォーカスと比較すると、ヘリコンフォーカスのほうが2倍以上処理時間が早いです。30日間のトライアルがあるので気になる方は使用感を確認してもよいと思います。

Helicon Focus(ヘリコンフォーカス)はカナダのジュエリー撮影スタジオEpicMindのブログで紹介されたのを見て試しに使ってみました。お試し期間は1ヵ月あります。 英語ではFocus Stackingと言うようです。合成結果のポイントの一つが、画像のつなぎ目の滑らかさです。ヘリコンフォーカスは背景、商品、光条の全てにおいて高い確率で美しく、滑らかに合成してくれます。また合成までの処理時間が短いことも利点です。たまに焦点のあっていない画像が選択されることがありますが、概ね良好な結果を得られます。

ただし、画像サイズが2~3MBを越えたあたりから画像をインポートした際に画像が劣化しました。その劣化した画像で焦点合成すると結果も劣化した画像の合成なので期待する結果になりません。画像のファイルサイズに注意が必要です。

Photoshop(フォトショップ)はアドビ社の画像編集ソフトウェアです。 映像制作、ウェブサイト制作などでは必需品と言えます。その画像編集ソフトウェアの1つの機能として画像合成があります。「編集」タブ→「レイヤーを自動合成」で、レイヤー毎の画像を合成してくれます。弊社で使用しているフォトショップはCS5.5です。CS5.5の合成は、単色の背景(例えば黒、白に近い灰色)のジュエリーやルースなどで、画像のつなぎ目がわかってしまうことがありました。光条は問題無く合成していました。Photoshop CCの合成精度は2015年現在は、CS5.1と比較して進化していないようです。上記Zerene Stackerやヘリコンフォーカスは様々なパラメータが選択できますが、Photoshopは合成の量や領域を決めるパラメータがありません。

CombineZM(ZP)はフォトショップの合成がうまくいかない際に探した合成ソフトウェアでした。このコンバインZMを使ったことで、合成には様々なアルゴリズムがあることがわかりました。また、ソフトウェアを紹介されているサイト「丸山宗利研究所 CombineZM(ZP)の使い方」を見て使い方など詳しく知ることができました。

無料ですが合成精度は高いです。ただし、弊社の使用環境においては光条が綺麗に合成できないことがあったり、操作上の使い勝手が悪かったり、気になる点がありました。光条など必要なく合成する場合は綺麗に合成してくれます。CombineZM(ZP)もHelicon Focusの合成と同様に、重なり部分の合成は弱点です。

上記のソフトウェアやリンクサイトとは一切営利関係はございません。